GPIFの基本ポートフォリオ変更に過度な期待を持つな
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオについての議論が盛んです。GPIFとは、我々国民の大事な公的年金資産の運用管理を行う独立行政法人です。GPIFでは、2013年6月に従前の基本ポートフォリオ(*)を次のように変更したばかりなのですが、継続的に見直しを行い安全資産である国内債券の比率を減らしその分を他資産に振り向けることが引き続き議論されています。GPIFの運用資産は2013年9月末で約124兆円なので、特定の資産にその1%でも追加で振り向けられれば、その特定資産に1.2兆円の資金が流入するとして、主に株式市場で注目を集めています。(*基本ポートフォリオとは、運用者がその基本ポートフォリオに定められた各資産の構成割合を目指し運用を行ういわば運用の憲法のようなものです)
○従前の基本ポートフォリオ 注)括弧内は乖離許容幅
国内債券 67%(±8) 国内株式 11%(±6) 外国債券 8%(±5) 外国株式 9%(±5) 短期資産5%(-)
○変更後(現在)の基本ポートフォリオ
国内債券 60%(±8) 国内株式 12%(±6) 外国債券 11%(±5) 外国株式 12%(±5) 短期資産5%(-)
一方で、2013年9月末のGPIF各資産の実績比率は次のようになっています。
国内債券 58% 国内株式 16% 外国債券 10% 外国株式 13% 短期資産2%
ここで重要なのは、当たり前の話ではありますが、ポートフォリオの資産構成割合は時価ベースで把握されるということです。
ここで、2013年12月末の国内株式の割合(未公表)を試算してみます。GPIFの国内株式のベンチマークはTOPIXなので、9月末から12月末までのTOPIX上昇率9.1%を9月末の国内株式比率に単純に乗じ、かつ総資産が国内株式の時価増加分だけ増えたとして計算すると、国内株式の比率は概ね17-18%となります(実際の運用は異なるのであくまで試算のための概算です)。つまり、既に昨年6月に変更した基本ポートフォリオにおける標準の国内株式資産構成割合を超え、既に乖離許容幅のギリギリまできていると推定できるのです。仮に、今年も日本株市場が好調であるとして、GPIFが基本ポートフォリオを国内株式に配分増とする形になったとしても(実際はそんなに機動的には動けないと思いますが)、その多くは、時価の増大を現状追認する形になるだけです。
よって、ここで私が言いたいのは、次の諸点です。
GPIFの基本ポートフォリオ変更は、リスク資産の比率が上限近くにまできているという運用の制約を取り払い、運用に機動性と安定性を持たせるには有効であり、かつあまりにも保守的であった従来の基本ポートフォリオを多少リスク資産に振り向けるためには良いことであろうと思う一方、国民の大事な年金資産をあまりにドラスティックにリスク資産に振り向けることは許されないはずです。そして、ドラスティックにリスク資産に振り向けることが許されない限り、マーケットが好調な時には、現状追認の域を大きく出ないということなのです。なぜなら、時価ベースで資産構成割合が把握されることから、配分増とする資産は既に大きくその資産比率を上昇させているからです。新聞等で報道されるのを読み、単純に配分比率が何%増えたからそれがそのまま今後の資金流入につながるとみて万々歳だねと思うのは間違っているということです。
マーケットが細部をさておき、国内株式等への配分増を期待し囃し立てているのが涙ぐましいですね。