賃金年功カーブのフラット化が進み定年後の不安が増す?

独立行政法人経済産業研究所が、2月5日に日本経済新聞「経済教室」で発表した内容によりますと、日本のフルタイムワーカーの所定内現金給与水準の、年齢に応じたカーブは、今の50才代以降の世代と比べ、今の35-40才の世代の方が、フラット化しているとのことです。つまり、高年齢層世代では企業内で歳を取るに従って上昇していた給与が、若い世代では上がりにくくなっているということです。直感的に理解しやすい結果と言えましょう。

特に若い時期にバブルを経験した現在50歳前後以降のサラリーマンであれば、大きく実感できるところでしょう。ただ、この世代でもカーブの上昇が十分だったかと言えば、当初の期待は大きく裏切られていたと考えられます。一般的にこの世代は、若い頃に低い給与水準をはるかに超えてガムシャラに働いたが、それは年齢が上がるとともに仕事も落ち着いてきて、給与も上がり交際費の裁量度も高まることによって十分以上に埋め合わせできるであろうといった経験則的な期待があったからです。当時、そのような学説があったと記憶しています。現実には、バブル崩壊、失われた20年という経済環境下、役職ポストの縮小、役職定年制度の強化、給与のフラット化、態の良い成果連動方式の賞与・基本給決定方式、企業の諸経費削減などが相俟って、その期待は、出世した、しないにかかわらず大きく裏切られたというのが実感と思われます。

ただし、若い世代が仕事の質と量、成果などに応じて高い給与を享受できるのであれば、上記の動きはむしろ喜ぶべきものです。
その視点では、この報告で示されているグラフを見る限りでは、ワーカーが若い時期に高い給与を得られ、それが歳をとってもあまり変わらないというより、若い時に昔より少し高めの給与をもらえるが、歳を取っていくに従い、それを上回って大きく減少した給与しかもらえないという寂しい状況を示していると言えます。つまり、若手のモチベーションが高まるカーブのフラット化ではないということです。

慶應義塾大学小幡准教授が言われているような好循環、すなわち、若年層に人的資本蓄積の機会を与えその付加価値に応じた高い賃金を企業が支払うような好循環が生まれそうな機運も感じられないということになります。

また、ニッセイ基礎研究所のレポートによれば、大学卒業後3年以内に離職する新卒者は3割に達し、若年者の失業率は、全体平均をはるかに上回っています。また、再就職もままならず社会との関係性を保てなくなる孤立無業者が162万人にも上るといいます。雇用環境が不安定なため、未婚化、晩婚化も進んでいます。
つまり、賃金カーブが途中からフラット化してきた現在の高年齢ワーカーやその下の世代の中年ワーカーは、自分の老後を心配しなければならないのみならず、成人した子供の扶養リスクまで負う時代になっているということです。さらににその下の世代となると、なかなか遠い将来は見通しがたいと言わざるを得ない状況のようです。

こうした時代に対応するには、各人が良い人的資本となれる真の実力を備え、賢く貯蓄と運用を行うしかないのでしょう。それが難しいのですが。

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