LCCピーチに見る人手不足時代の到来と不動産市場

格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションが、病欠のパイロットの欠員補充ができないことを理由に、この5月、6月の大量欠航を決めたというニュースがありました。消費者の立場からは、そんないい加減なことで国の認可事業を担う航空会社が許されるのか?という素朴な感情がありますが、構造的かつ世界的にパイロットの不足が懸念されているとのことです。
そして、2030年にはパイロットの大量退職の時期が到来するらしく、国土交通省では「2030年問題」として懸念事項と捉えているようです。

一方、全国展開の大手居酒屋チェーン店では、これも人手不足解消のため60店舗の閉鎖を決定したとか、牛丼大手チェーンが人手不足のため店舗を次々と閉めているらしいなどの報道等が絶えません。
片や、スターバックスは全員正社員化、IKEAはパート従業員を無期雇用化、ユニクロもパート・アルバイトの半数以上の正社員化を掲げて人材確保に腐心しています。

パイロットは超専門職であり、後者のチェーン店等の従業員は一般労働に従事ということで、単純に同一視することはできないかもしれませんが、色々な種類の職種で、今後人手が不足していくことに変わりはないでしょう。

正社員化や正社員同等待遇化の動きに関しては、私の経験からも、正社員より契約社員や派遣社員で来ていただいている人の方が優秀である例などを数多く見てきました。でも、給与レベルは大きく異なるんですよね。正社員の既得権益みたいなものでしょうか。

欧州諸国で行われているように、同種、同レベルの仕事をしている人は同一賃金というスタンダードが日本でも早く広まり、正社員かそうでないかは、単に働きかた(ライフスタイル)の違いという方向に進んでいくことを強く望みます。

私の考えでは、企業の人材採用も投資と同じで、時間分散を図った方がいいと思うのですが、時々の景気、業績で、極端に採用人数を増減させる企業が見られます。そうした企業に内部事情を聞けば、必ず年次による人材の偏在、ひずみが生じているようです。今後は、極端に労働力が減少し、売り手市場になっていくことを考えれば、企業は、将来を見越して毎年安定的というレベル以上に人を採るということを考えた方がいいと思います。

まあ、それはそれとして、人手不足が不動産市場に及ぼす影響はどんなことが考えられるでしょうか?
まず、人手不足=トータルの人が減るという視点では、オフィススペース需要の減少につながる可能性があります。
一方で、優秀な人材を惹き付けるために、ゆとりのあるゴージャスなオフィスを企業が用意しなければならなくなるかもしれません。いまだに、日本企業は、外資系企業と比べて、一人当たりのオフィススペースは狭いですし、アメニティも貧弱、ワクワクするオフィスを作り込めていないように思います。この視点では、一人当たりのスペース増によりオフィススペース需要がプラスに働きます。
他の視点では、人材確保のため人件費に多額の原資を確保する必要があり、オフィスに回す資金を後回しにせざるを得ないという状況が現れるかもしれません。
一昔前には、PCやプリンターなど人以外のスペースが増えるため、全体のオフィススペースも増えるという意見がありましたが、これは技術の進歩により省スペースのデジタル機器がどんどん開発されていますから、無視していいように思います。

上記がトータルでどちらに向いていくかは、やはり都市や企業で全く異なることになるとしかいいようがありません。確実に思うのは、従業員に素晴らしいワークプレースを提供できる優秀な企業と、そうでない企業の二極化、産業や企業を呼び込める都市とそうでない都市との二極化は必ず起こるでしょう。オフィスビルも、そのような企業を誘致できる立地にあり、かつ良いワークプレースを作り込めるスペックのある優良ビルと、そうでないビルの二極化(厳密には、段階をもっと分けての多極化といった方がいいかもしれません)が、今でも既に起こっていますが、今後更に進んでいくでしょう。
オフィス賃料については、やはり人口動態と経済成長による点が大きいと思いますので、いずれにせよあまり高い成長は見込めないでしょう。ピンポイントでグローバルに競争できるエリアが成立した場合には、そのエリアの中で良いスペックを持つビルのみが高額賃料を取れるでしょうが、果たしてそのビルの投資効率が良いかは何とも言えません。

また、良いワークプレースを作るための「ファシリティ・マネジメント」という業務がますます注目されてくることは間違いないと思います。最近は、この分野では、どんな座席配置、レイアウトにすれば業務効率が向上するかなど行動科学的な視点も重要な要素となっているようです。

 

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